「そんなに簡単になりたい大人になれると思ったら大間違いだぞ。」
誰しもがなりたい大人になれるとは限らない。
そんなメッセージ性が込められたこの映画「海よりもまだ深く」からのセリフ。
もの凄く日常的な映画で、物語の中で上がりも下りもない。
主に団地が舞台になっていて、主人公の阿部寛が、思い描いてた大人になれなかったリアルを、同じく理想とされていた思想と、今の現実を重ねた団地を軸にした作品で、母親役樹木希林との日常会話の掛け合いがたまらない。
映画の中ではなんとも言えないタコの滑り台が出てきて、子どもが怪我をしたとかなんとかでコーンで囲まれ、いつの時代でもあった公園の怪我に対し、過剰な今の時代を皮肉る樹木希林。
そして俺も本当にそう思うわ。なんて思っていたこの場所に実際に行ってみた。
ロケ地巡り?いいや、ただの団地好きだ。
実際に行ってみて、どこが撮影地なのかなんて全くわからなかったし、探しもしなかったけど、それでも団地に身を置くのはどこか心地よい。
映画の舞台になったのは監督是枝氏が若い頃住んでいた清瀬市の旭ヶ丘団地。是枝氏の思い出だけでなく、駆け回る子供たちをみかけると、この子達が大人になったときの思い出にもなり得るんだなって思うと感慨深い。
実際に映画に使われたタコの滑り台はこの旭ヶ丘団地ではないらしい。
是枝監督が幼少期遊んだらしい滑り台は少子化に伴いすでになく、別の近くの団地で撮影したものだそうだ。そしてそのすべり台も映画撮影直後、先程書いた怪我うんぬんの関係ですでに無いとのこと。残念だった。凄く好きなタコだったので。でもその滑り台はないものの、団地遊具は他にも写真の様に面白いものがいっぱいだ。
公園には遊ぶ子どもの姿はなく、カサカサと音をたてる枯れ葉と乾いた音だけが鳴り響く。
この日も天気に恵まれて、優しい陽が降り注いだ。
それとは反して団地モールの商店街は全てシャッター街。
どこもやってないシャッター街に鳴り響く団地特有のスピーカーから出るスカスカの音楽はその哀愁を更に掻き立てる。
団地というものは、そこに住んだ世帯の数だけドラマがあり、居心地の良かった場所でもあり、心のよりどころであり、故郷と呼べる場所なのだ。